東京高等裁判所 平成8年(行ケ)81号 判決 1997年10月29日
東京都港区芝大門1丁目13番9号
原告
昭和電工株式会社
代表者代表取締役
村田一
訴訟代理人弁理士
矢口平
同
寺田實
東京都千代田区紀尾井町6番12号
被告
日本テトラパック株式会社
代表者代表取締役
柚木善清
訴訟代理人弁理士
川合誠
同
清水正三
同
田中義敏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成4年審判第18473号事件について、平成8年3月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー」(出願時の名称は「二段式伸縮自在な吸引用パイプ」)とする実用新案登録第1928120号考案(昭和58年12月28日出願、平成3年1月7日出願公告、平成4年9月9日設定登録。以下「本願考案」という。)の実用新案権者である。
被告は、平成4年9月29日、本願考案につき、その実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成4年審判第18473号事件として審理したうえ、平成8年3月18日、「実用新案登録第1928120号を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年4月22日、原告に送達された。
2 本願考案の要旨
大径のパイプと、前記大径のパイプの中空部内に挿入された小径のパイプとよりなる飲料用ストローにおいて、大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にしたことを特徴とする飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、本件実用新案登録の出願前に日本国内において頒布された刊行物である昭和57年9月28日発行「日本食糧新聞」第6面(審決甲第2号証、本訴甲第4号証。以下「引用例」といい、そこに記載された考案を「引用例考案」という。)に記載された考案であって、実用新案法3条1項3号に該当するものであるから、本件実用新案登録は、同法37条1項1号(昭和62年法律第27号による改正前のもの)に該当し、無効にすべきものであるとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例の記載事項の認定(審決書8頁3~10行)、本願考案の「異なる色調」とは、「大径のパイプと小径のパイプを異なる色にするほか、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよく、更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することでもよい」(同8頁13~17行)ことは認めるが、引用例の写真の認識(同8頁10~12行)は争う。
1 審決は、引用例の「写真(白黒写真)のストローは、径の大きい方と小さい方とで濃淡が異なっていると認識できる。」(同8頁10~12行)としているが誤りであり、この誤りに基づき、本願考案と引用例考案とが同一であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
(1) 本願考案は、大径パイプと小径パイプの色調を異ならしめ、ストローの使用時において、使用者に二段式ストローであることを明示し、誤使用を防止するとともに、組立て作業等においても識別を容易にしたものである。換言すれば、本願考案における両パイプの色調は、上記の作用効果を発現しうる程度に異なることを意味している。
これに対し、引用例のストローの写真では、大径パイプと小径パイプとにわずかな明暗の相違は認められるものの、これが色の濃淡ないし異なる色を有するものであることまでは認められず、本願考案における上記のような意義を有する色調の相違は認識できない
すなわち、新聞である引用例の原本を国会図書館で調べてみると、複写物である引用例の写しに比べて紙質につやがなく、黄ばんだいわゆるわらばん紙的な色をしており、その結果、前記の大径パイプと小径パイプのわずかな明暗の差がやや小さく感じられる。また、引用例の写真を詳細に見れば、小径パイプも大径パイプも円周方向に若干の明暗の差がある(ストローの長手方向にストライプが見られる。)ので、新聞の読者はこの暗い部分を陰影と感ずるはずである。そして、小径パイプと大径パイプの若干の明暗の差も、暗い部分(内側の小径パイプ)は写真撮影の照明の陰影と感ずるはずである。そもそも写真において立体的な被写体の場合、程度の差はあれ陰影が現れることは通常であり、読者は無意識的にそれを前提として写真を観察しているから、写真における若干の明暗の差は、被写体に基づくものと認識されないのが通例である。
しかも、引用例においてストローを写真に掲載した目的は、新聞の読者にストローが二段式であることを示すためであって、両ペイプが色の濃淡ないし異なる色を有するものであることを認識させるためではない。そのため、引用例の記事の中に実用新案登録出願、意匠出願した旨の記載はあるが、色調について全く触れられておらず、色調の認識がなかったことは明らかである。したがって、新聞の読者は、記事の中の二段式ストローの構造に注目し、このストローが二段式であることは認識できても、わずかな明暗の相違は漠然と目に止まる程度であり、本願考案におけるような意義を有する色調の相違までは認識できるものではない。
(2) 被告は、「新聞写真のストローの色調計測に関する報告」(乙第2号証)に基づき、引用例の掲載写真は、本願考案と同様の白色と透明のパイプからなるストローを撮影したものであると推測している。
しかし、「実用新案法第3条第1項第3号にいう刊行物に記載された考案とは、その刊行物の記載から当業者が了知しうる技術的思想をいうものと解するのが相当であり、本件引用例についていえば、引用例中の写真の被写体に係るストローが濃淡を有するか否かが判断の基礎となるのではなく、引用例中の写真を見た当業者がどのように了知するのかが判断の基礎とされるものである。」(審決書9頁11~18行)から、問題は引用例の写真を見た人が、写真に現されたストローを本願考案と同様に色調が相違していると認識するか否かであり、例えば写真を撮影したストロー(被写体)に明瞭な色調の相違があっても、それが写真に現れなければ、写真から看取されるストローは明瞭な色調の相違はないことになる。したがって、写真の被写体の色調を推測することは意味がない。
2 以上のとおり、審決の引用例の写真の認識は誤りであって、色調を変えたことによる特有の作用効果を伴う本願考案の構成は、引用例には見られず、本願考案と引用例考案とが同一の構成ということはできない。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 引用例の掲載写真において、大径パイプと小径パイプとは、どの部分が大径のパイプであり、どの部分が小径のパイプであるか、また、どのストローが小径パイプを引き出した状態にあり、どのストローが小径パイプを挿入した状態にあるかを認識するのに十分なだけ濃淡が異なっている。したがって、引用例の写真のストローは、径の大きい方と小さい方とで濃淡が異なっていると認識できることは明らかである。
引用例の写真を見た者は、一般的にまず、写真にストローが撮影されていることを認識し、続いてストローの形状、色調等を視覚によって認識する。そして、写真のストローに明暗の差がある場合、写真を見た者は、無意識のうちに通常のストローを心に描き、心に描いたストローと写真のストローとを比較し、明暗の差が陰影によるものではなく、色調の差によるものであると判断することができる。
ところで、東京工芸大学工学部で同学部教授らにより行われた実験結果に関する「新聞写真のストローの色調計測に関する報告」(乙第2号証)によると、引用例の写真の大径パイプと小径パイプとでは断面の画素数が異なること及び反射濃度(階調)が異なることから、色調(濃度)の異なる材質からなるストローであることが推測されるとともに、実物ストローの黒白プリントの大小径パイプの反射濃度差(階調差)と新聞写真のそれは、類似するプロフィールを示し、写真の小径パイプには強いライン状の反射が見られることから、引用例の二段式ストローは、白色に近い明色の材質(光拡散性材質)の大径パイプと、透明に近い材質(光非拡散性材質)の小径パイプとからなるものと推測されている。この実験結果からも、引用例における大径パイプと小径パイプとが異なる色調を有するものと認められる。
さらに、大径パイプと小径パイプとからなるストローを上方から照明光を照射して撮影した写真(乙第3号証)によれば、透明材質のパイプは反射し、白色材質のパイプのそれぞれの下部には暗い部分が形成されることが分かるが、引用例の写真のように大径パイプの全体が明るく、小径パイプの全体を暗くすることは通常の撮影方法では不可能である。人は、引用例の写真のストローを見た場合、通常の撮影方法によって撮影されたものと考えるので、大径パイプと小径パイプとの明暗の差を陰影によるものとは考えず、色調によるものと考えることは明らかである。
原告は、引用例の写真のわずかな明暗の差は照明による陰影と感じられると主張するが、通常の照明方法においては、小径パイプ全体が写真撮影の際の照明の陰影として暗くなり、さらに、小径パイプの径方向における一部分が陰影として暗くなるような、陰影の中に更に陰影が形成されることはありえない。また、引用例の写真では、上2本については、右側の大径パイプが白く、左側の小径パイプが暗く写っており、下2本については、左側の大径パイプが白く、右側の小径パイプが暗く写っているが、通常の照明方法においては、一回の撮影でストローの左側に位置する部分と右側に位置する部分とにそれぞれ陰影が形成されることはないから、原告の主張には根拠がない。
2 したがって、審決の「本件考案と引用例記載の考案を対比すると、両者の構成は一致し、相違点は認められない。」(同9頁4~6行)との判断に誤りはない。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、乙第3号証を除いて、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願考案の要旨の認定、その「大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にした」構成のうち、「異なる色調」とは、「大径のパイプと小径のパイプを異なる色にするほか、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよく、更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することでもよい」(審決書8頁13~17行)ことは、当事者間に争いがない。
本願明細書(甲第2、第3号証)には、「このような飲料用の二段式伸縮自在なストローを、組合わせる時にも大径のパイプか小径のパイプかを直ちに見分けることが困難であり、組合わせ作業にとつて好ましくない。本考案は、以上述べたような事情に鑑みてなされたものであつて、大径のパイプと小径のパイプの外観を異なる色にすることによつて組合わせ作業の際等における両パイプの識別を容易にすると共に、組合わされたパイプの美観の向上をはかることも可能にした飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストローを提供するものである。」(甲第3号証1枚目下から3行~2枚目3行)、「この飲料用ストローは、大径パイプ11が赤色、小径パイプ12が白色にしてある。このように大径パイプ11と小径パイプ12とを異なつた色にすることによつて、このストローが二段式伸縮自在なものであつて小径パイプ12を引出して使用し得るものであることを暗示することになる。又両パイプを組合わせる作業時にも識別が容易であるので好ましい。・・・上述の実施例のように大径のパイプと小径のパイプを異なる色にする代りに、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよい。更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することによつても異なる色の組合わせが可能になる。この場合着色材が半分にてすむ。」(同号証2枚目6~14行)との記載がある。
これらの記載によれば、本願考案の二段式ストローは、大径パイプと小径パイプとを異なる色調とすることによりその識別を図り、組み合わせの作業及び引き出しての使用を容易にし、併せて美観の向上を図ることも目的とするものと認められ、異なる色調とする実施例としては、それぞれ異なる色の組合わせとする場合と、同一の色で濃淡の異なるものとする(純色に白色あるいは黒色を加える。)場合と、一方を材料の色をそのまま生かし他方のみ着色する場合を含むものと認められる。
2 これに対し、引用例(甲第4号証)には、「伸縮自在のストロー」に関する記事が写真とともに掲載されており、「伸縮自在のストロー」は「飲料紙容器添付用」であって、「伸縮自在のストローの特徴は、一本のストローを径の大きいものと小さいものの半体二本に分けたこと、径の大きい方に小さい方を挿入しておき、使用時に挿入半体を引き出して普通のストローの長さにする。」旨の記載があること(審決書8頁3~10行)は、当事者間に争いがなく、また、写真の説明として、「新開発の伸縮自在ストロー。上二本は紙容器差込み端を引出す方式、下二本は吸引する端を引出す方式である」(甲第4号証10段)と記載されていることが認められる。
さらに、引用例の写真には、二段式伸縮自在ストロー4本が横方向に上下平行に並べられ、その背景は黒くなっており、容器差込み端を引出す方式のものである上2本については、吸引する端を有する大径パイプが白く、容器差込み端を有する小径パイプが大径パイプより暗く写っており、吸引する端を引き出す方式のものである下2本については、容器差し込み端を有する大径パイプが白く、吸引する端を有する小径パイプが大径パイプより暗く写っているものと認められる。そして、4本のストローの大径パイプ及び小径パイプの径方向には、わずかな明暗の差が認められるが、ストローの軸方向に沿って観察すれば、明るい大径パイプのうちより明るい部分と、暗い小径パイプのうち明るい部分とが、挿入する段差を介して対応しており、また、明るい大径パイプのうち暗い部分と、暗い小径パイプのうちより暗い部分とが、同じく段差を介して対応していると認められるから、ストローの軸方向に沿って大径パイプと小径パイプとの全体を比較すると、大径パイプが明るく、小径パイプが暗くなっていることが明白に識別される。
以上のことからすると、引用例の写真における大径パイプと小径パイプとの明瞭な明暗の差は、本願考案における前示のような「異なる色調」に相当するものと認められる。
また、平成7年5月22日より同月30日までの間、東京工芸大学工学部で行われた実験結果に関する「新聞写真のストローの色調計測に関する報告」(乙第2号証)によれば、引用例の写真の大径パイプの反射濃度差(階調差)は、実物ストローの黒白プリントにおける白色パイプの反射濃度差と類似しており、小径パイプのそれは透明材質の小径パイプのそれと類似していることから、引用例の二段式ストローは、白色に近い明色の材質(光拡散性材質)の大径パイプと、透明に近い材質(光非拡散性材質)の小径パイプとからなる、反射濃度が異なる材質が用いられているものと推測されており、引用例の写真における前示のような大径パイプと小径パイプとの明瞭な明暗の差は、このことに由来するものと推認される。
原告は、引用例の写真のわずかな明暗の差は照明による陰影と感じられ、新聞の読者は被写体の色調に基づくものと認識しないと主張する。
しかし、ストローのように円筒形の物体に照明光を当てて写真撮影する場合、円筒形の曲面をなしている部分が反射面となるため、曲面の変化する方向、すなわちストローの径方向に沿って陰影が形成されることとなるが、ストローの軸方向に沿っては、反射面は常に一定であって変化しないから、陰影の影響はないものと考えられる。ところが、前示のようなストローの軸方向に沿った観察結果によれば、大径パイプと小径パイプとの段差を介して前者が明るく後者が暗くなっているのであるから、この明暗の差は、原告主張のような陰影によるものではなく、ストロー自体の色調の相違が明暗となって写真に撮影されたものと推測するのが相当である。原告の上記主張は採用できない。
また、原告は、新聞である引用例の原本では大径パイプと小径パイプのわずかな明暗の差がやや小さく感じられると主張するが、このことを認めるに足る証拠はなく、引用例(甲第4号証)において色調の相違が明瞭に把握できることは前示のとおりであるから、上記主張も採用できない。
したがって、審決が、引用例の「写真(白黒写真)のストローは、径の大きい方と小さい方とで濃淡が異なっていると認識できる。」(審決書8頁10~12行)と認定し、「本件考案と引用例記載の考案を対比すると、両者の構成は一致し、相違点は認められない。」(同9頁4~6行)と判断したことに誤りはない。
3 以上のとおりであるから、原告の取消事由は理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成4年審判第18473号
審決
東京都港区赤坂2丁目2番19号
請求人 日本テトラパック 株式会社
東京都千代田区神田美土代町7番地10 大園ビル
復代理人弁理士 川合誠
東京都大田区東糀谷4-6-20 日本テトラパック株式会社
研究開発本部知的財産権部
代理人弁理士 清水正三
東京都大田区東糀谷4-6-20 日本テトラパック株式会社
研究開発本部知的財産権部
代理人弁理士 田中義敏
東京都港区芝大門1丁目13番9号
被請求人 昭和電工 株式会社
東京都港区芝大門1丁目13番9号 昭和電工株式会社内
代理人弁理士 寺田實
東京都港区芝大門1丁目13番9号 昭和電工株式会社内
代理人弁理士 矢口平
上記当事者問の実用新案登録第1928120号「飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー」の実用新案登録の無効の審判事件について、次のとおり審決する。
結論
実用新案登録第1928120号を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
Ι 手続の経緯
実用新案登録第1928120号(以下、「本件実用新案登録」という。)は、昭和58年12月28日実用新案登録出願、平成3年1月7日出願公告(実公平3-131号)、平成4年3月13日付け手続補正書による明細書の補正を経て、平成4年9月9日に設定登録がなされたものであって、平成4年9月29日に本件審判を請求されたものである。
そして、本件審判請求は、平成5年法律第26号附則第4条第1項の規定によりなおその効力を有する改正前の実用新案法の適用を受けるものである。
Ⅱ 本件考案の要旨
本件実用新案登録に係る考案(以下、「本件考案」という。)の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「大径のパイプと、前記大径のパイプの中空部内に挿入された小径のパイプとよりなる飲料用ストローにおいて、大径のパイプと小径のパイプの外観を夫々異なる色調にしたことを特徴とする飲料容器中の飲料用の二段式伸縮自在なストロー。」
Ⅲ 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件の実用新案登録を無効にする、との審決を求めるものであって、以下の無効事由(1)~(4)により、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第1号に該当する旨主張するものであると認める。
無効事由(1)
本件考案は、その実用新案登録出願前に日本国内において公然知られ、又、公然実施をされた考案であるから、実用新案法第3条第1項第1号又は同第2号に該当し、したがって本件実用新案登録は同法第3条第1項の規定に違反してされたものである。
無効事由(2)
本件考案は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、したがって本件実用新案登録は同法第3条第1項の規定に違反してされたものである。
無効事由(3)
本件考案は、甲第1号証及び甲第3号証~甲第6号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は実用新案法第3条第2項の規定に違反してされたものである。
無効事由(4)
本件考案は、当該実用新案登録出願の日前の他の実用新案登録出願であって当該実用新案登録出願後に出願公開されたものの願書に最初に添附した明細書・図面に記載された考案と同一であるから、本件実用新案登録は実用新案法第3条の2第1項の規定に違反してされたものである。
証拠:
甲第1号証:米国特許第3,189,171号明細書
甲第2号証:「日本食糧新聞」昭和57年9月28日発行、第6面
甲第3号証:実願昭56-139820号(実開昭58-45483号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第4号証:米国特許第2,192,037号明細書
甲第5号証:実願昭49-12302号(実開昭50-103879号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第6号証:米国特許第4,340,175号明細書
甲第7号証:実願昭58-24756号(実開昭59-130583号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第9号証:実願昭57-162857号(実開昭59-66731号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
甲第10号証:「日経産業新聞」昭和58年5月21日発行、第9面
甲第11号証:「日経産業新聞」昭和58年6月25日発行、第9面
甲第12号証:受取書
甲第13~16号証:納品書控
甲第17号証:「新聞写真のストローの色調計測に関する報告」
証人:九島金幸、佐野捷俊、今村光伸
(なお、甲第8号証は欠番である。)
Ⅳ 被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人が主張する理由及び提出した証拠によっては本件実用新案登録を無効にすることはできない旨答弁する。
証拠:
乙第1号証:実願昭58-199472号(実公平3-131号)に対して三陽紙器株式会社が提出した実用新案登録異議申立書副本の写し
乙第2号証:甲第2号証所載の写真の二段ストローを解析したイラスト
乙第3号証:同一色調の2本のパイプよりなるストローの写真のコピー
乙第4号証:証明書
乙第5号証:警告書の写し
乙第6号証:陳述書
乙第7号証:実願昭57-117234号(実開昭59-21284号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム
乙第8号証:意匠登録第640368号公報
乙第9号証:回答書
その他以下の資料を提出している。
資料1:実願昭58-199472号(実公平3-131号)に対して三陽紙器株式会社が提出した実用新案登録異議申立書副本及び実用新案登録異議申立理由補充書副本の写し
資料2:カタログ「The Vercon Total Packaging Concept」
Ⅴ 当審の判断
そこで、請求人の主張する無効事由・証拠について検討することとし、まず、無効事由(2)について検討する。
(1)甲第2号証(以下、「引用例」という。)に記載された考案について検討すると、職権により国立国会図書館所蔵の原本を確認したところ、引用例の中段には、「伸縮自在のストロー」に関する記事が写真とともに掲載されており、「伸縮自在のストロー」は「飲料紙容器添付用」であって、「伸縮自在のストローの特徴は、一本のストローを径の大きいものと小さいものの半体二本に分けたこと、径の大きい方に小さい方を挿入しておき、使用時に挿入半体を引き出して普通のストローの長さにする。」旨の記載があり、また、写真(白黒写真)のストローは、径の大きい方と小さい方とで濃淡が異なっていると認識できる。
(2)本件考案でいう「異なる色調」とは、大径のパイプと小径のパイプを異なる色にするほか、同一の色でその濃淡の異なるものを採用してもよく、更に一方のパイプは着色しないで、材料の色をそのまま生かし他方のみ着色することでもよい(平成4年9月9日付け手続補正書により提出された訂正明細書第5頁第15行~第20行、平成4年12月17日発行の昭和58年実用新案登録願第199472号(実公平3-131号)についての実用新案法第13条で準用する特許法第64条の規定による補正の掲載の公報第2頁第12~14行参照)とするものであるから、本件考案と引用例記載の考案を対比すると、両者の構成は一致し、相違点は認められない。
(3)被請求人は、引用例の発行当時は当業者に色調に関しての問題意識もなく、引用例中の写真に写されたストローは、色調の相違が小さく、本来同じ色調である旨主張する。
ところで、実用新案法第3条第1項第3号にいう刊行物に記載された考案とは、その刊行物の記載から当業者が了知しうる技術的思想をいうものと解するのが相当であり、本件引用例についていえば、引用例中の写真の被写体に係るストローが濃淡を有するか否かが判断の基礎となるのではなく、引用例中の写真を見た当業者がどのように了知するのかが判断の基礎とされるものである。引用例中の写真は、甲第17号証に係る「新聞写真のストローの色調計測に関する報告」からみても、濃淡を有する二段ストローを写真撮影した場合とほぼ同様のものでもあり、他に当業者がこれを同じ色調(明るさ)のストローと認識すべき特段の事情も認められない。
(4)以上のとおりであるから、本件考案は、本件実用新案登録の出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案であって、実用新案法第3条第1項第3号に該当するものであり、本件実用新案登録は同法第3条第1項の規定に違反してされたものというべきである。
Ⅵ むすび
したがって、本件実用新案登録は、実用新案法第37条第1項第1号に該当し、他の無効事由及び証拠について検討するまでもなく、無効にすべきものである。また、審判に関する費用については、実用新案法第41条で準用する特許法第169条第2項の規定でさらに準用する民事訴訟法第89条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年3月18日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)